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世界の文字 苗族変形漢字
苗族の言語は3大方言,1) 湘西方言,2) 黔東方言,3) 川黔滇方言,に分けられる。現在は,ラテン文字表記法が普及する中で,3) の川黔滇方言には,ミャオ語・ラテン文字と並行してミャオ・ポラード文字(いわゆる老苗文)が使われている。
一方, 1) の湘西方言には,漢字を基にした独特の文字が3種類あることが最近になって明らかになった。清末に苗族の知識人が考案した既存の漢字から任意に音符・意符を選び出して組み替えた変形漢字(方块苗文とも)で,板塘苗文,老寨苗文,古丈苗文と名づけられている。初めの2つは,今でも,相当広い範囲で流通しているらしい。苗族は古来歌謡を愛する民族として知られ,古くから伝承した苗歌を記録し伝えることは,歌師たちの強い願望であった。3種の変形漢字は,いずれも,歌劇の集団が作り出したものである。(西田)
板塘苗文
板塘苗文は,苗族歌師板塘(1863~1927)が考え出した文字で,1 千字余りを作って『苗文字正譜』(『閲読苗歌習字』ともいう)に収めた。その書物は,漢字と苗文字,苗文字と漢字を対照して示す体裁をとっていた。手写本が 2 部あったが,ともに散逸している。ところが,貴州省花垣県龍潭鎮一帯の苗族歌師たちは,現在なおこの苗文字をよく記憶して使っているという。
例1:三苗网(リンク切れ)による。
例2:苗文的记载板塘苗文 (苗族是有文字的!苗文不只是传说!)
古丈苗文
古丈苗文は,『古丈坪庁志』(光緒丁未年[1907]撰)に収録された 100 字余りの変形漢字を指している。誰が作ったのか分からないが,以前,そのような苗字があったと古老が伝えた記録がある。(苗族是有文字的!苗文不只是传说!)
老寨苗文
同じ花垣県の別の苗村,麻栗場老寨村に残る変形漢字。民間文学を熱愛した苗族文人たちが苗歌劇団を結成し,苗歌を記録し苗歌劇の脚本を編集するために創作したもので,この民間の歌劇団は付近数県の苗族村落で活動を続け,老寨苗文は脚本や歌本の中に今も生きている。文字例は,次項例 2 を参照。
文字構成
3種の方块苗文は,同じ苗語方言を対象に考案されたものであるから,期せずして近似の字形をとることがあっても不思議ではない。次の例は,杨再彪, 罗红源による。
例 1 数詞
数詞を漢字 “乙” で囲って作るのは特異である。
例 2 単字
下図では,古丈苗文 1~11,45,板塘苗文 12~28,38~44,老寨苗文 29~37 の例を示す。これらは例外なく変形漢字である。特定の漢字を意味範疇の指定に使った字形の例もある。
次の例は,戴庆厦, 许寿椿, 高喜奎による。
参考
注
- 西田龍雄(2001)「東アジアの諸文字」『世界文字辞典』(言語学大辞典,別巻,三省堂)
- 杨再彪, 罗红源(2008)「湘西苗族民间苗文造字体系」吉首大学学报
- 戴庆厦, 许寿椿, 高喜奎主编(1991)『中国各民族文字与电脑信息处理』(中央民族学院出版社)
- [最終更新 2019/04/20]
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